この記事でわかること
- 妊娠中にかかりやすい病気・感染症の全体像と、それぞれが胎児に与えうる影響
- 風邪・インフルエンザのときに飲んでよい薬・避けたい薬の一般的な目安(自己判断はしない)
- 貧血・妊娠糖尿病など血液と代謝のトラブルの気づき方と検査の流れ
- 持病(心疾患・甲状腺・喘息など)がある場合に妊娠前から整えておく管理体制
- すぐ受診すべき症状・様子を見てよい症状を切り分ける判断の目安
公的情報源: 厚生労働省「風しんについて」(参照)/こども家庭庁「予防接種・感染症」関連情報
結論を先にお伝えします
妊娠中は免疫の働きが変化し、体への負担も増えるため、ふだんより病気にかかりやすくなります。大切なのは「かかりやすい病気を知っておくこと」と、気になる症状は自己判断せず主治医に相談することの2点です。
市販薬には妊娠中の安全性が確認されていないものが多く、薬の可否は妊娠週数や体質によって変わります。判断に迷ったら、まずはかかりつけの産婦人科へ電話して指示を仰ぐのが安心です。
- かかりやすい感染症(風疹・トキソプラズマ・CMV・GBS)は、事前の抗体検査と日常の予防が鍵
- 市販薬は「妊娠中でも飲める」と思い込まず、医師・薬剤師に確認してから使う
- 妊娠高血圧症候群・妊娠糖尿病・貧血は自覚症状が乏しく、定期健診の検査で見つかることが多い
- 出血・激しい腹痛・胎動減少・高熱・破水はためらわず救急受診
なお、妊娠高血圧症候群そのものの詳しい症状・管理については妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)の記事でくわしく扱っています。本記事では「病気・感染症と薬・受診の見きわめ」に焦点を当てて整理します。
妊娠中にかかりやすい病気・感染症の全体像
妊娠中にかかりやすい病気は、大きく「感染症」「代謝・血液のトラブル」「持病の悪化」の3つに分けて考えると整理しやすくなります。
妊娠20週以降に多い高血圧の合併症、中期以降に見つかる糖代謝の異常、後期にかけて進みやすい貧血など、時期によって注意したい病気が少しずつ変わるのが特徴です。まずは全体像を一覧で押さえておきましょう。
| 分類 | 主な病気・感染症 | 気づくきっかけ |
|---|---|---|
| 感染症 | 風疹・トキソプラズマ・CMV・GBS・インフルエンザ | 抗体検査・スクリーニング検査・発熱など |
| 代謝・血液 | 妊娠糖尿病・鉄欠乏性貧血 | 定期健診の血液検査・血糖検査 |
| 血圧 | 妊娠高血圧症候群 | 健診の血圧測定・むくみ・頭痛 |
| 持病の悪化 | 心疾患・腎疾患・甲状腺疾患・喘息・てんかん | もともとの通院・妊娠前からの相談 |
このうち感染症と代謝・血液のトラブルは、妊婦自身にはっきりした自覚症状が出にくいものが少なくありません。だからこそ、定期健診の検査を欠かさず受けることが安全な妊娠期間につながります。
ここからは分類ごとに、注意点と日常でできる対策を見ていきます。
妊娠中にかかりやすい感染症と胎児への影響
感染症の中には、妊婦自身は軽症でも胎児に影響が及ぶものがあります。代表的な3つを押さえておきましょう。
各感染症の「感染経路」「胎児への影響」「予防のポイント」を、まず表で俯瞰します。
| 感染症 | 主な感染経路 | 予防のポイント |
|---|---|---|
| 風疹 | 飛沫感染 | 妊娠前の抗体検査・ワクチン接種 |
| トキソプラズマ | 生肉・土壌・猫の糞便 | 加熱調理・手洗い・手袋 |
| サイトメガロウイルス | 子どもの唾液・尿 | こまめな手洗い・食器の共用を避ける |
| GBS | 産道(常在菌) | 35〜37週の検査と分娩時の抗菌薬 |
風疹(三日はしか)と先天性風疹症候群
妊娠初期(特に妊娠16週以前)に風疹ウイルスに感染すると、胎児に先天性風疹症候群(CRS)が起こるリスクがあります。主な症状は心臓の異常・白内障・難聴で、重い場合は深刻な結果につながることもあります。
予防の基本は、妊娠前に抗体検査を受け、抗体が低ければワクチンを接種しておくことです。風疹ワクチンは生ワクチンのため、接種後2か月は避妊が必要とされています。
妊娠してから抗体がないとわかった場合は、人混みなど感染リスクの高い場所を避け、産婦人科医と連絡を取り合いながら過ごします。家族が風疹ワクチンを接種して身近な人から守る対策も有効です。
トキソプラズマ・サイトメガロウイルス感染
トキソプラズマは生肉・土壌・猫の糞便から感染する寄生虫で、妊娠中に初めて感染すると胎児に影響が及ぶことがあります。生肉を扱ったあとはしっかり手を洗い、ガーデニングのときは手袋を着用しましょう。
サイトメガロウイルス(CMV)は感染率が高く、保育園などで子どもの唾液・尿に触れて感染するケースも報告されています。上の子がいる妊婦さんは特に注意が必要です。子どもの食べ残しを口にしない、おむつ替えのあとは手を洗うなど、日常のひと手間で感染リスクを下げられます。
どちらも「うつらない工夫」を毎日の習慣にすることが、いちばんの対策。気になる症状や心当たりがあれば、産婦人科で相談してください。
B群溶血性連鎖球菌(GBS)と分娩時のリスク
GBSは腟内に常在する細菌で、妊娠35〜37週頃のスクリーニング検査で陽性とわかった場合、分娩時に抗菌薬(ペニシリン系)を点滴して新生児への感染を防ぎます。
GBSが陽性でも妊婦自身には症状が出ないことがほとんどです。ただし新生児が感染すると重い病気につながる危険があるため、検査結果は主治医としっかり共有しておきましょう。陽性だった場合は、出産時に「GBS陽性です」と伝えられるよう母子手帳などに控えておくと安心です。
風邪・インフルエンザと妊娠中の薬の使い方
妊娠中は薬の使い方に慎重さが求められます。ここがいちばん不安に感じる方が多いところなので、ていねいに整理します。
先に結論をお伝えすると「自己判断で市販薬を飲まず、医師・薬剤師に相談する」が基本です。市販薬の多くは妊娠中の安全性が確立されておらず、「妊婦は服用しないでください」と明記されているものが大半だからです。
妊娠中の市販薬は自己判断で飲まない
以下は妊娠中の薬使用に関する一般的な目安です。あくまで参考であり、個別の判断は主治医に確認してください。同じ成分でも妊娠週数によって扱いが変わることがあります。
- 比較的安全とされるもの:アセトアミノフェン(解熱・鎮痛に使われることが多い)
- 原則避けたいもの:イブプロフェン・アスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)
- 成分により要注意:抗ヒスタミン薬配合の総合感冒薬・鼻炎薬・咳止め
- 使えない薬:一部の抗菌薬・ワルファリン・ACE阻害薬など
つらい症状をがまんし続けるのも体に負担です。「市販薬を飲んでよいか」で迷ったら、かかりつけの産婦人科か薬剤師に電話で相談すれば、必要に応じて妊娠中でも使える薬を処方してもらえます。
インフルエンザにかかったときの対処
妊娠中のインフルエンザは重症化しやすく、高熱が流産・早産につながる懸念もあります。インフルエンザワクチンは妊婦でも接種できるとされており、流行前の10〜11月に接種を済ませておくと安心です。
感染が疑われるときは、早めにかかりつけの産婦人科か内科を受診してください。その際、抗インフルエンザ薬の投与を相談します。妊婦への投与実績がある薬もあるため、自己判断で市販の解熱剤に頼らず、医師の指示に従うのが安全です。
発熱・下痢・嘔吐は産婦人科か内科か
症状によって、まず行くべき診療科が変わります。判断の目安を表にまとめました。
| 症状 | まず受診する科 | 伝えること |
|---|---|---|
| 腹痛・出血・胎動減少を伴う | 産婦人科を最優先 | 妊娠週数・症状の始まった時間 |
| 発熱・下痢・嘔吐のみ | 内科・かかりつけ医 | 「妊娠中である」ことを最初に |
| 夜間・休日で迷う | #7119へ電話 | 症状と妊娠中であること |
ポイントは、どの科にかかるときも最初に「妊娠中です」と伝えること。これだけで、薬や検査の選び方が変わります。夜間や休日で迷う場合は、救急安心センター(#7119)に電話して指示を仰ぐと安心です。
妊娠糖尿病・貧血など血液と代謝のトラブル
血液と代謝のトラブルは、健診の検査で見つかることが多いものです。自覚症状が乏しいぶん、定期健診を欠かさないことが何より大切になります。
なお、妊娠20週以降に多い妊娠高血圧症候群については妊娠高血圧症候群の記事でくわしく解説しています。ここでは妊娠糖尿病と貧血を取り上げます。
妊娠糖尿病のスクリーニングと血糖管理
妊娠糖尿病は妊娠中に初めて見つかる糖代謝の異常で、日本人妊婦の約7〜9%に起こるとされています。妊娠24〜28週に行う50gグルコースチャレンジテスト(GCT)で基準値を超えた場合、確定のため75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を行います。
血糖管理がうまくいかないと、巨大児・難産・新生児の低血糖などにつながることがあります。管理の基本は食事療法です。
- 食事を分ける:1日3食+間食2〜3回に分け、血糖の急上昇を抑える
- 食べる順番を意識:野菜・たんぱく質・食物繊維を先に食べる
- 急な糖質を控える:糖分の多い飲料・菓子を控える
食事療法だけで血糖が安定しないときは、妊娠中でも使えるインスリン注射を導入します。極端なカロリー制限は胎児の発育を妨げる可能性があるため避けるべきで、具体的な食事量は管理栄養士の栄養指導を受けて決めるのが安心です。
鉄欠乏性貧血への対処
妊娠中は胎児・胎盤への血液供給が増えて血液が薄まり、貧血になりやすい状態です。特に妊娠後期にかけて鉄の必要量が増えるため、食事だけで補えない場合は鉄剤(内服)が処方されます。
ヘモグロビン値が一定の基準を下回ると貧血と診断され、治療の対象になります。動悸・息切れ・強い疲労感があるときは、がまんせず主治医に相談してください。鉄分の多い食品(赤身肉・レバー・小松菜など)を意識しつつ、鉄剤は医師の指示に従って続けることが大切です。
持病がある妊婦が知っておきたい管理ポイント
もともと持病がある場合は、妊娠前から専門科と産科が連携する「合同管理体制」を整えておくことが安全につながります。
妊娠中は循環する血液量が約40〜50%増えるため、心臓や腎臓に大きな負担がかかります。持病の種類ごとに、押さえておきたいポイントを整理します。
- 心臓病・慢性腎炎がある場合の妊娠管理
- 甲状腺疾患(橋本病・バセドウ病)と妊娠
- 気管支喘息・てんかんがある場合の注意点
心臓病・慢性腎炎がある場合の妊娠管理
心疾患がある場合、重症度によって妊娠継続の考え方が変わります。重い心疾患では妊娠自体が体に大きな負担となるため、循環器内科と産科のチームで方針を相談します。
慢性腎炎では、腎機能が保たれていて高血圧がなければ妊娠を続けられるケースもありますが、妊娠高血圧腎症への移行リスクがあるため、定期的な腎機能・尿たんぱくのチェックが欠かせません。生活面では次の点を意識します。
- 十分な休息・睡眠:疲労をためない
- 食後30分は横になる:循環器への負担を軽くする
- 重い物・階段を避ける:負荷の大きい動作を減らす
- 感染予防:人混みを避けマスクを着用する
- 減塩・水分管理:主治医の指示に沿って調整する
甲状腺疾患(橋本病・バセドウ病)と妊娠
甲状腺ホルモンは胎児の脳・神経の発達に欠かせません。橋本病による機能低下症は、妊娠前から甲状腺ホルモンを適切な量に調整しておく必要があります。
バセドウ病では、抗甲状腺薬の種類を妊娠初期に変更することが一般的で、専門医との連携が欠かせません。甲状腺疾患がある方は、内分泌科と産婦人科を定期的に受診する合同管理体制を、できれば妊娠前から整えておきましょう。
気管支喘息・てんかんがある場合の注意点
気管支喘息は、妊娠で改善する人・悪化する人・変わらない人にほぼ三分されます。喘息発作による低酸素状態は胎児に影響するため、「妊娠中だから薬を減らしたい」という自己判断は避けるのが大切です。吸入ステロイドや気管支拡張薬の多くは妊娠中も使えるとされています。
てんかんでは、抗てんかん薬の種類によって胎児への影響が異なります。発作そのものも胎児の低酸素リスクになるため、薬を急に自己中断するのは危険です。妊娠を希望する段階で神経内科医・産婦人科医に相談し、計画的に薬の調整や葉酸の補充を進めることがすすめられています。
症状別「受診のタイミング」判断ガイド
最後に、いちばん知りたい「いつ受診すべきか」を整理します。妊婦健診については妊娠中の定期健診についてもあわせてご覧ください。
すぐに救急受診すべき症状
以下の症状は緊急性が高く、夜間・休日を問わず、ためらわずに産婦人科救急を受診してください。
- 性器出血:量・色を問わず
- 激しい腹痛・繰り返す子宮収縮のような痛み
- 胎動が急に減った・なくなった(妊娠28週以降)
- 強い頭痛・視野のぼやけ・上腹部の激痛(高血圧の悪化サイン)
- 破水:サラサラした液体が止まらず流れ出る
- 39度以上の高熱が続く
翌日の受診でよい症状・様子を見てよい症状
軽い鼻水・軽い咳・微熱(37度台)・軽い便秘・軽い吐き気は、次の定期健診まで様子を見られることが多いものです。ただし症状が悪化する場合は早めに連絡してください。
何か迷ったときは自己判断せず、まずは通院中の産婦人科に電話して、いまの状況を伝えて指示を仰ぐのがいちばん安全です。産婦人科に電話しにくい時間帯は、救急安心センター(#7119)を活用しましょう。
パートナー・家族ができること
妊婦が体調を崩したとき、家族の迅速な対応が母子の安全を守ります。日頃から次の準備をしておくと安心です。
| 準備しておくこと | 具体例 |
|---|---|
| 連絡先の共有 | かかりつけ産婦人科・救急病院の番号を夫婦で共有 |
| 搬送手段の確認 | 最寄りの救急産科対応病院を把握しておく |
| 代替体制の確保 | 家事・上の子の世話を頼める先(実家・ファミサポ) |
いちばんのリスクは、つらそうなのに「大丈夫だろう」と様子を見すぎることです。迷ったらすぐ電話・受診を、家族みんなの合言葉にしておきましょう。
まとめ:気になる症状は自己判断せず主治医へ
妊娠中の病気は、母体と胎児の両方に関わります。最後に大切なポイントを整理します。
- 妊娠前に風疹・トキソプラズマ・甲状腺の検査を受けておくと安心
- 妊娠糖尿病・貧血・高血圧は自覚症状が乏しいため、定期健診の検査を欠かさない
- 市販薬は「飲める」と自己判断せず、医師・薬剤師に確認する
- 持病がある場合は、妊娠前から専門科と産科の合同管理体制を整える
- 出血・激しい腹痛・胎動減少・高熱・破水はためらわず救急受診
- 家族も緊急時の連絡先・受診先を事前に把握しておく
不安に感じることが多い時期だからこそ、ひとりで抱え込まず、気になる症状は早めに主治医へ相談してください。正しい知識と「迷ったら相談」の姿勢が、安心して過ごすいちばんの支えになります。
よくある質問
妊娠中の病気・薬について、よく寄せられる質問をまとめました。
Q1:妊娠中に風邪をひいたとき、市販の総合感冒薬を飲んでもよいですか?
原則として、妊娠中の自己判断での市販薬服用は避けてください。総合感冒薬には複数の成分が配合されており、妊娠への影響がはっきりしないものが含まれることが多いためです。症状がつらいときは、まず通院中の産婦人科または内科に電話して相談し、必要に応じて妊娠中でも使える薬を処方してもらいましょう。
Q2:妊娠糖尿病と診断されました。食事制限はどのくらい厳しくすればよいですか?
極端なカロリー制限は胎児の発育を妨げる可能性があるため避けてください。基本は「1日の食事を3食+間食2〜3回に分けて血糖の急上昇を防ぐ」「野菜・たんぱく質・食物繊維を先に食べる」ことです。具体的な食事量は体重や活動量で変わるため、管理栄養士の栄養指導を受けるのがおすすめです。
Q3:風疹の抗体がないことが妊娠後にわかりました。どうすればよいですか?
妊娠中は風疹ワクチン(生ワクチン)を接種できません。そのため、保育園・人混みなど感染リスクの高い場所をできるだけ避け、周囲の人(特にパートナーや上の子)がワクチンを接種して身近な人を守る対策が重要です。出産後はできるだけ早くワクチンを接種し、次の妊娠に備えましょう。
Q4:持病でてんかんの薬を飲んでいます。妊娠しても服薬を続けてよいですか?
てんかん発作そのものが胎児の低酸素リスクになるため、薬を急に自己中断するのは危険です。ただし薬の種類によって胎児への影響が異なります。妊娠を希望する段階で神経内科医・産婦人科医に相談し、必要に応じて影響の少ない薬への変更や葉酸の補充を計画的に進めてください。
Q5:上の子が風邪をもらってきます。妊娠中の感染が心配です。
上の子からの感染は、多くの妊婦さんが不安に感じるところです。基本の対策はこまめな手洗いと、子どもの食べ残しを口にしない・食器を共用しないこと。サイトメガロウイルスは子どもの唾液・尿から感染することがあるため、おむつ替えのあとの手洗いも有効です。心配な症状があれば産婦人科で相談してください。
Q6:夜中に高熱が出ました。すぐ受診すべきですか?
39度以上の高熱が続く、腹痛や出血を伴う、胎動が減ったと感じる場合は、夜間でも産婦人科救急を受診してください。判断に迷うときは、救急安心センター(#7119)に電話して症状と「妊娠中である」ことを伝え、指示を仰ぐのが安全です。受診の際も最初に妊娠週数を伝えましょう。
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免責事項
※本記事は一般的な情報提供を目的とした整理です。妊娠中の症状・服薬・治療方針は個別の状況によって異なります。気になる症状がある場合は、かかりつけの産婦人科医または専門医にご相談ください。
